106万円の壁の撤廃で何が変わる?パート中心の会社がすべき見直し
2026.10.30 公開 | 監修:添田拓海(B2B推進部グループ長 / 福利厚生アドバイザー)

パートで働く人が年収106万円を超えないように勤務時間を調整する、という働き方は長く続いてきました。会社の側でも、年末が近づくとシフトに入れる人が減り、人手のやりくりに苦労してきた経験があるかもしれません。
その「106万円の壁」のもとになっていた社会保険の賃金要件が、2026年10月1日に撤廃されました。ところが、これで年収を気にせず働けるようになったと受け止めるのは早く、加入するかどうかの線が年収から労働時間へ移ったと考えるほうが実態に合っています。撤廃によって何が変わり、パート・アルバイトの多い会社が何を見直すべきかを順にご説明します。
撤廃されたのは「月額8.8万円以上」という要件
短時間で働く人が健康保険と厚生年金保険に加入する要件は、これまで5つありました。このうち所定内賃金が月額8.8万円以上という要件が、令和8年政令第275号により2026年10月1日でなくなっています。
要件 | 2026年9月まで | 2026年10月から |
|---|---|---|
週の所定労働時間 | 20時間以上 | 20時間以上(変更なし) |
賃金 | 月額8.8万円以上(年収約106万円) | 要件なし |
雇用の見込み | 2か月を超える | 2か月を超える(変更なし) |
学生 | 学生でない | 学生でない(変更なし) |
企業規模 | 従業員51人以上 | 従業員51人以上(2027年10月から段階的に縮小) |
月額8.8万円を12か月分に直すと約106万円になり、これが「106万円の壁」と呼ばれてきた理由です。厚生労働省は撤廃の背景として、全都道府県で最低賃金が時給1,016円を超え、週20時間以上働けば賃金の要件を自然に満たすようになったことを挙げています。
加入の線は「年収」から「週20時間」へ
賃金の要件がなくなったことで、加入するかどうかを分けるのは週の所定労働時間になりました。週20時間以上で働く人は、年収にかかわらず加入の対象です。
社会保険への加入を避けたいと考える人が調整する対象も、年収から労働時間に変わります。年末に勤務を減らして年収を抑えるやり方は通用しなくなり、雇用契約で決める所定労働時間を20時間未満にするかどうかの判断になるわけです。週20時間未満で働く人や、企業規模の要件にあたらない会社で働く人は、これまでどおり家族の扶養に入れるかどうかを年収130万円の基準で判断します。
週20時間以上で働く人が加入の対象になる会社の範囲も、これから段階的に広がっていきます。
時期 | 対象になる会社(従業員数) |
|---|---|
現在 | 51人以上 |
2027年10月 | 36人以上 |
2029年10月 | 21人以上 |
2032年10月 | 11人以上 |
2035年10月 | 規模の要件なし |
ここでいう従業員数は、フルタイムの従業員と、週の労働時間がフルタイムの4分の3以上の人を合わせた数です。いまは対象外の会社でも、2027年10月以降に対象になる時期を確かめておく必要があります。
会社の負担はどのくらい増えるか
短時間で働く人が加入した場合も、健康保険と厚生年金保険の保険料は会社と本人が半分ずつ負担します。時給1,100円で週20時間働く人の場合、月の賃金は約9万5,000円で、標準報酬月額は9万8,000円になります。
健康保険料率を10%と仮定し、40歳未満の人で計算すると、会社の負担は1人あたり月およそ1万3,900円です。この条件のパートタイマーが10人新たに加入すれば、会社の負担は年間でおよそ166万円増える計算になります。実際の金額は、加入している健康保険の料率や年齢によって変わります。
これから対象になる会社は、保険料調整制度で本人の負担を抑えられる
会社の負担とは別に、新たに加入する人にとっては手取りが減ることが一番の気がかりです。そこで2026年10月から、本人の保険料の一部を会社が一時的に負担できる「保険料調整制度」が始まりました。
この制度を使える会社は限られていて、いま従業員51人以上の会社は、2026年10月より前から短時間労働者を社会保険の対象にしているため使えません。主に使えるのは、2027年10月以降の企業規模の縮小で新たに対象になる従業員50人以下の会社と、2026年10月以降に労使の合意で任意に短時間労働者を加入させた会社です。
会社が上乗せして負担した保険料は、3か月後の保険料から差し引かれる形で戻ってきます。会社が最終的に納める保険料は増えずに、本人の負担を通算3年間軽くできる仕組みです。標準報酬月額8万8,000円の人なら、1年目と2年目は本人と会社の負担割合が25対75になり、3年目はその軽減が半分になります。
項目 | 内容 |
|---|---|
対象になる会社 | 2026年10月1日以降に労使の合意で任意に短時間労働者を加入対象とした会社、2027年10月以降の企業規模の縮小で新たに対象となった会社など |
対象になる人 | 週20時間以上、標準報酬月額12.6万円以下、学生でない短時間労働者 |
期間 | 制度の利用を申し出た月から通算3年間 |
注意点 | 会社単位で適用され、一部の人だけには使えない。途中でやめることもできない |
2027年10月以降に対象となる会社がこの制度を使うには、対象になった月から2年以内に申し出る必要があります。一度利用した会社は、再び利用することはできません。
パート中心の会社がすべき見直し
撤廃と適用拡大を受けて、パート・アルバイトの多い会社が見直したいのは次の3点です。
見直す点 | 確かめること |
|---|---|
所定労働時間の棚卸し | 週20時間前後で契約している人が何人いるか。シフトの実態が契約から離れていないか |
本人の意向の確認 | 加入して働く時間を増やしたいのか、時間を減らして扶養の範囲にとどまりたいのか |
福利厚生の予算 | 社会保険料の会社負担が増えたぶん、任意の福利厚生にかけられる予算がどれだけ残るか |
3つめの予算は見落とされやすい項目で、社会保険料の会社負担は法定福利費として必ず出ていくため、増えた分は任意の福利厚生の予算を圧迫しがちです。それでも加入した人にとっては、手取りが減ったうえに福利厚生まで縮むと、働き続ける理由が見えにくくなってしまいます。会社の費用が増えない形の福利厚生を組み合わせる考え方は、無料で導入できる福利厚生とは?0円で成り立つ仕組みと確認点で取り上げました。
パート・アルバイトに福利厚生をどこまで用意すべきかは、パート・アルバイトの福利厚生|企業が対象に含めるべき範囲と選び方で法律上の線引きを整理しています。
SBC Wellnessの場合
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まとめ
2026年10月1日に月額8.8万円の賃金要件がなくなり、社会保険に加入するかどうかの線は年収から週20時間の労働時間へ移りました。企業規模の要件も2027年10月から段階的に縮小され、2035年10月にはなくなります。
週20時間以上で働く人の加入が増えれば会社の保険料負担も増えますが、2027年10月以降に新しく対象になる会社であれば、手取りが減る人の負担を保険料調整制度で抑えられます。また福利厚生の予算は会社の費用が増えない制度との組み合わせで考えられます。まずは週20時間前後で働いている人を洗い出し、本人の意向を聞くところから始めてください。
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出典
補足
賃金要件の撤廃は、令和8年政令第275号により2026年10月1日に施行されています
会社負担の試算は、健康保険料率10%、40歳未満、標準報酬月額9万8,000円と仮定した概算です。厚生年金保険料率は18.3%です
最低賃金の減額特例の許可を受けている人など、一部の例外は記事では扱っていません
SBC Wellnessの提供内容・条件は2026年10月時点のものです
